最上 雛人

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「簡単に言うなっての!」 俺はそう言って起き上がり、制服に付いたゴミを叩き落とした。 「簡単なことだよ。俺と春の仲が解れたなら友利先輩か咲良か要さんが紡いでくれる。それに何よりも・・・」 雛人はそう言うと俺の制服のネクタイを掴み・・・。 「うおっ!?」 ぐいっと俺を引き寄せた。 目の前に雛人の整った顔があった。 それも息が掛かりそうなほど近くに・・・。 だから俺は息を止めた。 俺は息を止めたまま雛人をじっと見つめ見た。 そこには真顔の雛人がいた。 いつもみたいにクスクスと笑って薄い笑みを浮かべた雛人じゃない真顔の雛人・・・。 それはバスケの試合のときに静に・・・それでいて強烈に他を圧していた最上 雛人(もがみ ひなと)の視線と顔だった。 それに俺は止めていた息を呑み込んだ。 俺の視線はさっき、この雛人の視線と顔に弾かれた。 今度は弾かれない。 「・・・へぇ~? 見返すこと・・・できるんだ?」 雛人は表情を崩さずにそう言ってクスリと声だけで笑った。 雛人は無駄に変なところが器用だ。 「・・・できるよ。こう見えても空手の有段者だ。・・・舐めんなよ?」 俺はそう言って雛人を真似るようにニヤリと笑んでみた。 けれど、それはどうもうまくいかなかった。 「ハイハイ」 雛人はどうでもよさそうにそう言った。 けれど、雛人は俺のネクタイを離すことも引っ張るその力を弱めることもしなかった。 「・・・離せよ」 俺はそう言って身動ぎをしようとした。 しかし、それを雛人は許してはくれなかった。 雛人は視線だけで俺を制した。
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