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「ん。大丈夫。ちょっと寝不足で気持ち悪いだけ」
そう言って無理に笑んだ雛人の表情はかなり無理をしているものだった。
だから『ちょっと』なんて言葉が嘘だってことはバレバレだった。
・・・強がりめ・・・。
俺はそう心の内で吐き捨てて大きな溜め息を吐き出した。
雛人は蒼白い顔をしてバレバレの嘘を吐いて無理に笑んでいるのになんで俺はそれに気づかない?
なんで近くに居たのに気づかない?
悔しいし腹が立つ・・・。
誰に?
そんなこと、決まっている。
俺自身に・・・。
だから俺は・・・。
「・・・おい。春」
その唐突な呼び掛けに俺はハッとさせられた。
春・・・。
俺をそう呼ぶのは今のところ雛人だけだ。
「・・・今日の補習・・・サボろう」
そう言ってニヤリと笑った雛人はやっぱり無理をしているのがバレバレだった。
だから俺は小さな溜め息を吐き出して『ああ』と答えるだけにとどめた。
今は余計なことを言って変に雛人を刺激したくない。
「え? 春海、サボるの?」
そう訊ねてきた咲良に俺は苦い笑みを投げ掛けた。
咲良は俺と視線が合わさるとニコリとして『じゃあ俺も』と呟いた。
「え? 咲良もサボるの?」
そう言ったのは蒼白い顔をした雛人だった。
「うん。今日、要さん、暇でお家にいるみたいだから遊びにでも・・・」
はじめは明るく弾んだ声をしていた咲良のその声が不意に小さくなった。
そして、眩いほどの笑みを浮かべていた咲良のその笑みは掻き消え、その表情は妙に強張っていた。
俺は『どうしたのだろう?』と思いつつ咲良の視線の先を辿り、その理由を知った。
雛人だ・・・。
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