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「雛人・・・。目、目!!」
俺はそう言って雛人と咲良の間に入り本当に苦い笑みを滲ませた。
「え? 何? 目? 俺の目がどうかした?」
雛人はそう言いつつクスクスと笑っていた。
それに咲良は少し、わたわたした様子を覗かせていた。
「お前の今の目、すげぇ怖いから!!」
俺はそう言って雛人に歩み寄って雛人の目の前で手を振って咲良から気をそらせようとしてみた。
それに雛人は大きな溜め息を吐き出してその場にしゃがみ込んでまた大きな溜め息を吐き出した。
「要と咲良のくそリア充・・・爆発しろよ」
そうぼそりと言った雛人のその声と口調と言葉には羨ましさが滲み出ていた。
全く・・・。
「え? 何? 雛人、田代先輩と喧嘩でもしたの?」
咲良は本当に心配そうにそう言ってしゃがみ込んでいる雛人の横に行き、自らもその場にしゃがみ込んで雛人の細い背中をそっと撫で上げた。
本当に咲良は優しい。
「喧嘩なんかしてないよ」
雛人はそう言って苦い笑みを浮かべ、真夏の生ぬるい風にそよぐさらりとしたその艶やかな黒髪を抑え、辛そうに目を細めた。
雛人はその動作がその表情がいちいち色っぽい。
「じゃあ・・・どうしたの?」
咲良が遠慮がちにそして心配そうに訊ねていた。
それに雛人は淡く微笑んだ。
嬉しいんだ。
雛人のそれはすぐにそうだとわかる微笑みだった。
「友利先輩・・・四泊五日の合宿なんだよ。だからあんまり連絡が取れなくて・・・」
そう言った雛人の口調は拗ねた子供のようだった。
と言うか雛人は本当に拗ねていた。
「そう・・・なんだ。ごめん。知らなくて・・・」
咲良はそう言って雛人の頭をよしよしと撫でていた。
咲良はなんの迷いもなくそんなことを雛人にする。
まあ・・・雛人も咲良にそんなことを自然とするけれど・・・。
「咲良のせいじゃないよ」
そう言った雛人の声は優しかった。
しかし、雛人のその表情には意地の悪い笑みがうっすらと浮かんでいた。
何か変なことを言うな・・・。
俺はそう感じ取った。
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