すべてはあの時から

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 やはり実体として掴めずにいました。「死」なる言葉がこれほど徴表されつつあるというのに。もちろん観念した訳ではありません。生への執着はあるにはありました。でもどことなくこの雰囲気に浸っていたいという想いもしていたのです。それは偏に彼女のたたずまいが世俗と一線を画していたからかもしれません。何しろその笑みが不敵なものではなく、むしろ柔和であったぐらいでしたから。  でも、事の次第は緊迫感を増していました。彼女はロープを引きました。軽くはあるにせよ頸部は締め付けられました。そうして私の顔に蝋燭の火で照らしたのです。 「こうやって蝋燭を点してやるの。幻惑に近い感じが得られるから。でも同時に分かったわ。自身に潜む残忍さが。ほんと不思議。全く可哀想にならない。」     
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