すべてはあの時から

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しかし、相当ながく立っていたもので疲れてしまったのです。この分だとどうやら現れそうになさそうです。であってもこのまま此処を立ち去れずにいました。もう一度自身の記憶を頼りに事件のあった画廊へ行くことにしました。もっともためらいもありました。何分、私を殺そうとした女、そう、そこの画廊の店主はまだ捕まっていなかったからです。ある意味、そら恐ろしいことでした。しかし、そこに訪れ、別な方が新しく商売でもされていれば、幾分か自身の気持ちはおさまるのではと思ったのです。  その道すがら思い出していました。あのとき、何とか難を逃れすぐに交番に行き警官に事の次第を告げたことを。しかし、内容が殺人未遂被疑事件でもあることから所轄の警察署にパトカーで連れてゆかれました。ただ、被害者であると共に現住建造物放火の容疑者として身柄を確保された次第でもあったのです。それというのも床に落ちた蝋燭の炎にキャンバスやスプレー缶をくめたことを話していたからです。警察署では聴取を受け、すぐに緊急逮捕されました。そして、裁判官から逮捕状が発布され、その執行を受けました。それについて係官は正当防衛とも考えられるが、何分、旅行中であり住所があるにしても所在を掴めなくなるおそれがあるからやむをえない措置だと説明してくれました。ただ、若干後悔しました。それというのも全く正当防衛と受け止められると考えていたからです。だからすすんで火にくめたことも話したものですから。     
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