すべてはあの時から

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「もうしばらく待ってもらえませんか?」  私がスマホを手にしているを見ての言葉でした。ただその物言いは、懇願するでもなし、哀切に満ちたものでもありませでした。だからか、意外と好感が持てたのです。だとすれば無下にはできますまい。その言に従い、110番への通報はしばらくはせずにおこうと思いました。 「それにしても大胆だね。」  何分、あの事件の現場になった所のすぐ斜向かいだったからです。もちろん、性別は女から男へと変わっていました。しかし、それを以ってしても官憲に嗅ぎ付けられないとは限らないはずです。 「確かにそうですね。」  それは意味深な答え方だと思いました。しかもそれに尽きるものでもなかったのです。あの事件のとき、そう、私がこの男から殺されかけたとき、買った絵がウインドウに掲げていたのです。そして、外に私を認め、誘ったときの「お待ち致してました」の言葉。やはり早々に立ち去った方がいいのでしょうか。しかし、みすみすこのまま帰らせるとは思えませんでした。何かの隙に逃げ出すのが賢明なのでしょう。まずはそういう素振りを一切出さず悟られないようにしなくてはと思いました。 「あの絵は?」     
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