すべてはあの時から

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 こう男に尋ねていました。苦し紛れでもなかったのですが、手近に交わせる話題ともなれば、この絵と性転換のことぐらいしか思い浮かばなかったのです。もっとも自分が買ったものだというつもりは毛頭なく、糾すふうにならないようにしました。とっくに自身の所有にかかるものだとの意識は消え失せていましたから。であるにもかかわらず、気になっていたのです。どうやって手に入れたか、いやそれにも増して、私を誘おうとウインドウに飾っていることです。 「パトロンの方から買い取った次第です。実は、私が描いた絵は一旦はパトロンに所有権が帰属することになっていました。一種の譲渡担保ですね。売上の一部を借り入れの返済として彼に渡していました。  あの絵は警察に押収されました。ただ、事件に関連するものの犯行に供されたものでないので没収とはならなかったのです。その結果、還付されることに。彼は設定契約書を警察に示し、それを取り戻したのです。  でも、絵を扱ったことのない彼はあの画廊に残した絵をどう処分しようかあぐねていました。その次第を知った私は知人に仲買を依頼し、全て一括で購入したのです。」     
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