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男は、そう話しつつ席を立ちました。それを認めるや次の瞬間思わず身構えてしまいました。でも、一瞥もせず、ショーウィンドウへと行き、そこに掲げた絵を取り外し私の目の前に置いたのです。丸いテーブルの上です。二人が対峙し、会話を交わしているまさにそのテーブルの上に。ただ、唯一これだけが、調度品として私のセンスに適う感じがしました。それも、白い塗装が程よく薄っすらと木目が浮かび上がらせていたからでしょう。アンティーク調?そういえる向きにありました。
「あなたが買おうとしたこの絵こそが自分の死顔を想像して描いたものです。だから、あなたがこの絵を求めたときふと過ぎったです。一種のインスピレーションとして。あなたこそが私の存在するこの世界に終末をもたらしてくれると。もちろん、それは瓦解するという向きのものでした。私を覆っている全ての事象が崩れ落ちるという具合に。思えば魂を売ったのです。邪悪なるもう一つの化身に。意識の底で女性になろうと。女性であるから男性を異性として愛おしく想える様になろうと。でも、厭世感は拭えないままでした。私にとってそれは歪でした。」
男は不意に立ち上がり、レジ台へ向かいました。相当に自分の世界に入り込んでいたのです。何とそこの引出しから出刃包丁を取り出しました。
「これで切断したのです。陰茎を。」
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