すべてはあの時から

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「そう。リベラルアーツを。」   リベラルアーツ?確かにその女性はそう応えました。まさに不夜城といえるこの歓楽街の一角で私にどこかへ案内しようと云ったあの女性です。もちろん大学で何を学んでいたのかと尋ねられた処で別段応える必要はありませんでした。私の手にあったモネの図録を見て、絵画でも専攻されていたのでしょうかと聴かれ“ええ、まあ”と適当に誤魔化せばよかったのかもしれません。ただ、美大生で画家志望だという誤解があってはという無用な気づかいから総合文藝部で美術史をやっていましたと答えてしまったのです。もっとも彼女の口から“リベラルアーツ”と発せられた折は少なからず相応な学の持主であるとの印象を受けました。 「どうです。そこは絵も扱っている処です。行ってみません?」  彼女がどういう場所を案内する御仁かは存じているつもりでした。一方、高等教育を受けられている方には違いない様でもありました。訳があって単に身をやつしているだけなのでしょうか。興味は尽きなくなり、このまま付き合ってそういった事情も伺いたくなったのです。だから絵も扱っているという売春窟に案内願おうと考えました。     
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