すべてはあの時から

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 彼女の説明ではここから少し離れた場所で半時間ほど歩かねばならないとのことでした。別段歩くのは苦ではありません。そう告げると彼女はやや早足で歩みだしました。ただ、こんな具合に風俗の関係に携わる様になったかを質すきっかけはつかめないままでした。こういった膠着状態を抜けたかったので白々しい質問を行いました。そう、「美大に通っていらしたのですか?」と。 「いいえ、女子大です。リベラルアーツのカレッジに。」にと品よく述べたのです。そうして、次のとおり梗概を語り出したのです。それはしみじみとしたもので何かを懐かしむ様でした。  彼女の御尊父は官吏で中央省庁に勤めていられたとか。だからか身だしなみや礼儀作法に厳しく、修道女の様な教育をと考え基督教主義の女子大に附属中学から入学させたそうです。そして、大学を卒業してすぐに見合、結婚させたのが高校の教諭だったと。その夫も栄達を求め校長まで昇進したみたいでした。でも反面かなりの守銭奴で定年後はその蓄えや親から相続した田地を売却したお金で友人とソープランドを始めたとのことでした。かなり儲かったそうです。ただ、あるとき店の金庫にしまっていた株券が盗まれたと。全くそれに気づかないまま株券を善意取得したという人が顕れた様です。しかも何とその友人とグルになり夫を経営陣から追い出した様です。もちろんその後は裁判で争ったのですが、その途中で夫が亡くなってしまい身を引いたのが顛末であると。ただ、この世界で得た知己を活かし案内をしては僅かな手数料を得る様になったのだと。     
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