4 インド編

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 夜でも観光客が多く、インド門の前は出店も出ている。  そこで、サリーと同じ生地で作ったらしい布製品の雑貨屋さんがあった。少し覗いてみると、生地で作ったミサンガやランチョンマット、コースターなんかが置いてある。  エキゾチックな生地で中々可愛いので見惚れていると、ふとついになっている商品があることに気付いて目を止めた。  それは、男性用と女性用が二つ並べられたブックカバーだった。黒い男性用と、オレンジの女性用を手に持ってみたら、なんとなく両親を思い出した。  日本を出て早2年。この間には一度も連絡していない。手紙で足跡を辿られても困るし、警察が介入していたらメールや電話も突き止められてしまうと考えたのだ。  まだ2年しかたっていないので、日本のインターネットで検索すれば北都の記事は未だに出てくる。日本には時効がないので、興味や関心が薄れ、捜査が打ち切りになったところを狙わなければならない。 (もう少し、我慢しよう)  もうしばらく、もうしばらく。もうしばらく我慢して、警察が捜査を諦めたら両親にプレゼント共に手紙を送ろう。  そう決めて、手に取ったブックカバーを元に戻した。  空を見上げると、乾燥した地形の為か満天の星空だった。日本に住んでいた時に見えなかった星空が、今はこんなにも燦然と輝く。  知らない言語、見慣れない肌の色、顔のつくりが、自分が遠い地にいるのだと言う事を思い知らされる。 (私は元気だよ。お父さんとお母さんも、元気でね)  そう祈りをささげると、心の中で北都がクスクスと笑っていた。 (僕も元気だよ。いつかビデオレター送るからね)  思わず笑ってしまった。ミナはビデオに映らないし、仮に映ったとしても北都は精神体だからどの道ミナしか映らないのだと話すと北都は憤慨していたが、きっといつかお手紙を書こうと姉弟で約束した。
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