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インドに来て数日後、作戦会議である。みんなで地図を覗き込む。
「今度はどこのどなたを襲撃するんですか?」
「あぁ、今回は人身売買をしている組織だ」
「人身売買!? それって、誘拐してどっかに売っちゃうってことですか?」
「そうだ。この国は人口が多いうえに戸籍のない人間もいるからな。被害者も数多い。大体私は人の売り買いと言うのが個人的に嫌いだ」
インドは人口が多く、そして貧富の差が激しい。インドに限らず貧しい地域は犯罪が横行しがちだ。攫われた少女や女性は売春を、少年は少年兵や労働力として売られていく。
今までベトナムをはじめとして東南アジア圏を数か国渡り歩いてきたが、その現状は目に余るものばかりだった。
村ぐるみで子どもたちに児童ポルノを作らせているところもあり、それを見たメリッサが逆上して首謀者を殺したりした。子供や老人を炭坑や重労働の農耕に従事させていたり、稼ぎがなくゴミ拾いを家族でして金を稼ぐ光景も珍しくはない。中には13歳の少年が8歳の弟の面倒を見ていると言う事もざらだ。
貧困と言うのは、戦争の次に人の最悪な部分を引き出すファクターだ。それを餌にしてむさぼり食う害虫を始末することは、元々正義感の強い性格だけに、最早ミナの中でためらいはない。
「さて、無駄話は終わりだ。いくぞ」
「はい!」
ムンバイの街並みを抜けると、まるで廃棄物処理場のようなスラムが広がる。そのスラムから外れたところにその人身売買組織のボス、イルファーン・スレシュの豪邸は佇んでいた。
「ふぁぁ、今回もご立派な大豪邸」
ベトナムのデイヴィスファミリーよりは小さいが、ゴシック調とムガル王朝の建築が折衷されたような素敵な家。
「今回は門番が二人か。よし、ミナ行け」
「また私ですか!? もう嫌ですよ! あんなの!」
ベトナムで笑い者にされた苦い思い出が蘇る。
「大丈夫だ。今度はボニーも一緒だ」
「あたしぃぃ!? 嫌だよ! あたしにはクライドがいるもん!」
「黙れ。命令だ。行け」
「……はい」
二人でしょんぼりしながら立ち上がる。門番たちに近づくと、どちらともなく譲り合いが始まった。
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