深夜シフト

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 同期の松本先輩によると、多田先輩は新入生オリエンテーションから大学生亜種になる素質、非モテの残念オーラを隠すことなくビンビンに放っていた。曰く、「心のスカウターで計るまでもなかった」そうだ。  誰もが「恋」そのものを求め、血眼になっている中、茨城から上京した多田先輩はあろうことか「果たして恋はどこから来たのだろう?」と疑問に思ってしまった。この時点で先輩の暗黒の大学生活が決定していた。灰色どころじゃない。イカスミよりも真っ黒である。  幸か不幸か多田先輩の知的欲求を満たす環境を、弊大学は備えている。クラスメイトがサークルや実行委員会の新歓で必死に酒と恋の味を覚えている頃、多田先輩は一人膨大な蔵書を誇る中央図書館に入り浸っていた。  その通い妻ぶりは中央図書館筆頭司書である三池の嫗も盲いた目を見開くほどで「久しぶりに図書館に布団と茶碗を持ち込む猛者が現れたわい。見よあの青き衣を。金色の絨毯に立つ勇姿を」と叫んだという。失礼、これは幾分盛った話だ。  多田先輩は先人の恋に関する研究を必死に追った。文化人類学の書籍や文学研究のレポートを漁り、どうやら今、日の本の国に跋扈する「出会い→告白→デート→同衾」という恋愛のプロセスのルーツは中世の騎士道物語にあると突き止めるに至った。  「えらく突飛だろう?」と松本先輩。  「ええ、全くです」と私。松本先輩は目を細めた。     
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