深夜シフト

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「言うじゃないか、社会科学コースの辻斬りよ」  辻斬り。えらく物騒なあだ名だが、私のことを指している。少し説明をさせてほしい。  私は多田先輩と同じ社会文化学部に所属していたが、専攻は若干異なった。あちらは書籍研究とフィールドワークを生業とする文化研究コース。こちらはアンケート調査法を至高と豪語する社会科学コースである。同じ学部に属していながら、両者の溝はマリアナ海溝より深かった。  どれくらいの因縁があるのかと言うと、弊大学の中央にある二つの丘、馬山と鹿山に陣を敷き、毎年9月15日に戦いを繰り広げている程だ。通称・社会文化学部馬鹿合戦である。  馬鹿合戦の歴史は長い。この闘争は四半世紀前から繰り広げられている。おかげで弊大学を卒業した教授たちは気分がいいと「僕の頃の馬鹿合戦は…」と目を細めて語ってくれるものだ。    私は馬鹿合戦において、学部一年生の頃から切り込み隊長を任されていた。マクロ研究はこの世の真理に最も近づける研究方法だと乱暴にも思っていたし、若いので血の気も多かった。文化研究コースに籍を置きながら社会科学コースに与する〝裏切りの軍師〟、松本先輩に煽てられていたと言ってもいい。     
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