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深夜シフト
多田先輩の話をしよう。
バイト先の多田先輩は、「恋の起源」を研究する大学生だ。
そんなもの追いかけてどうするのか。冷静な感想を抱く方もいるだろう。至って真っ当な感覚である。
あなたは集団生活を基本とする現代人の道から一歩たりとも外れていない。育ててくれた親御さんに、私は感謝の念を送りたい。
ーーーさて、多田先輩の話だ。
大学という閉鎖空間には、往々にして愛おしいけど救えはしない、負の方向に魅力的な人間が紛れ込むことがある。
彼らは純粋で好奇心が旺盛であるがゆえに、学部に培われた情報網というものを全く利用しない。良くも悪くもまっさらな心で研究室という名の血の池地獄に両足ジャンプをキメてしまう。憲法で保障されている真っ当な生活もうっちゃり、学問の2文字に心血を注ぐ。就職活動のネタ作りの時間もろくに持てない。
自身の研究の資料購入のため、またはフィールドワークの遠征資金のためとはいえ、右足を第一種奨学金、左足を第二種奨学金に取られにっちもさっちもいかなくなった悲しい生き物のことをーー私は大学生亜種と呼んだ。そう、多分にもれず、多田先輩がその代表格である。
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