第1章

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 「いいの。 家にはママンよりも早く帰りたくないの。 今晩はママンは店の手伝いで遅くなるから」  と娘は淀みなく明るく反論した。  でもお父さんが怒るだろう?と訊くと、  「いいの」  今度は、 極端に短く、 訳も加えずにまた否定した。  「ここで一緒に食べるのがまずい?」  そうだ、 と答えると、 少し彼女は考えた後、  「じゃ、 私はこっちで、 おじさんはそっちで食べれば良いじゃん。 」    事務所とゲストルームの間には当然ながらドアがあり、 その横には小ぶりながら窓があった。  そこに彼女がテーブルを移動させ、 窓を開けて一緒に食べれば良い、 というアイデアで、 なんだかバカバカしくもあるんだけど、 彼女なりに考えたのだと思うと、 そして何より、 子供と大人の間を渡ろうとする頃の独特の危うい魅力を湛えた、 大げさな言い方をするとそんな禁断の香りのする異性と少しは話をしてみたかったのは事実だ。 V  結局、 普段は締め切っている仕切り窓を開け、 彼女手作りの焼き菓子を手渡してもらいながら、 自販機の飲み物で夜半のお茶会が始まった。  
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