1 二足の草鞋を履く青年

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 真夜中の警備室に、ブザーの音が鳴り響いた。警報盤を見てみると、「ガス漏れ異常」のランプが点灯している。ひとまず音だけ止めたところで、仮眠室のドアが開いて、木村さんが顔を出した。 「どないしたんや」 「ガス漏れが出てます。いつものやつでしょうね」 「しゃあないなあ。いちおう確認だけは行っといたらなあかんのう。帰ったらすぐ交代しよか」 「分かりました」  と、俺は現場に向かう準備をした。いつもなら殆ど手ぶらで出かけてしまうか、いっそのこと行ったことにして無視する時もあるぐらいだが、木村さんと一緒の時はそうはいかない。いい加減なことが嫌いな人なのだ。  警備員にとって、鍵は命である。壁に吊り下げてあるキーボックスから、マスターキーを取り出して、キーストラップに引っ掛ける。それを肩に巻きつけたうえで、さらにベルトに通してある革製のキーケースに入れた。そうしてヘルメットを被り、懐中電灯を肩から吊り下げれば完了である。 「ほな気ぃつけてな」  と、木村さんが眠そうな顔で送り出してくれた。いちおう規定上は深夜の仮眠は四時間あるのだけれども、巡回が長引いてしまったり、なかなか寝付けない時もあったりで、実際は二・三時間ぐらいになってしまう。  なおかつ木村さんは話好きで、自分の仮眠時間になっても警備室で雑談をしたりしているから、正味のところは一時間ぐらいしかないだろう。それでもちゃんと制服を着替えて、少しでも横になることが疲れを残さない秘訣なのだそうだ。  だからいつもパジャマである。いい加減なことが嫌いな人なのだ。
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