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俺が見られたのはそこまでだ。木村さんの描写によれば、彼らは油に沈んでも元気なものらしく、すぐに蓋をしないと危ないのだそうだ。それでもさすがに一晩放っておけば、瓶の底に沈んでいるのだと言う。一晩もつだけで驚きだし、彼らのことだから蛟龍のように淵に潜んでいるだけで、時が来れば天に昇ったりする可能性もないとは言えない。
一体どうしてそんな残酷なことをするのかと言われるかもしれない。これもやはり木村さんの発案で、彼らを油に漬けこんでおくと薬になるのだそうだ。確かにインターネットで調べてみると、民間療法としては割に有名で、火傷や切り傷や虫刺され、中耳炎の治療なんかに用いられるそうだ。東洋医学でも「蜈蚣」と呼ばれる生薬とされており、解毒作用がある等云々と書かれてあるが、「蜈蚣」がどんな薬なのか、どう発音するのかも不明である。分からなくてけっこうだ。
最初の一、二匹は良かった。けれども毎晩数匹の割合で捕獲されるので、容器の中に何匹も漬け込むことになり、インスタントコーヒーの容器も一本では足りなくなって、今では在庫は五本に達している。エアコンの室外機の上に、黒ずんだ液体の入った容器が並び、その中に不気味な沈殿物がたゆたっている光景は、俺の気持ちをどん底まで沈ませた。
何よりも気が滅入るのは、仮眠室にも彼らが出現することである。長い一日を終えて、短い仮眠時間を取ろうとしても、ベッドの中には既に先客がいるかもしれないのだ。とても寝られるものではないから、シーズン中は着替えずに寝そべり、制服のままうとうとするのが常だった。
いちおうの対策は取られてはいた。他の警備員から出た仮説で、彼らは寒いところが苦手なので、仮眠室内をエアコンで最低気温にまで冷やしておけば、部屋には寄りつかないのではないかという話を元に、一応そうしてはいたのだが、どこまで実効性があるかも分からないし、まさか担当者に訴え出る訳にもいかなかった。
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