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約束
木曜日。
会社からの帰りに秋田さんを見かけた。
「お疲れ様」
俺がそう声をかけると、秋田さんはくるりと振り向いた。柔らかな栗色の髪が肩口で軽く跳ねる。
「あ、お疲れ様、佐伯君」
秋田さんは部署こそ違うが先輩にあたる人で、入社以来五年、どのように角度を変えても頭が上がらぬほどに世話になっている。人当たりが良く、有能で、明るくはきはきとしている。髪の跳ね具合で調子が判別できるのを知ったのは二年前。絶好調の時は、それこそスーパーボールの様によく跳ねる。
ちなみに年齢も俺よりは上だが、それについて言及すれば命が危ない。わきまえる。これはとても大切な事だ。このおかげで今日まで、俺は秋田さんと仲良くさせて貰えているのだから。
「今日もなんかいろいろあって疲れたわぁ」
「そっすねぇ」
最近、秋田さんは部署が変わり、色々とストレスに苛まれているらしい。彼女も仕事の上では生真面目で几帳面な人だから、割とストレスはたまりやすい。
「どうすか、一杯」
「いいねぇ」
秋田さんの顔がほころんだ。
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