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俺はこの秋田さんの笑顔が好きだ。というより、秋田さんが好きだ。そして彼女がお酒好きである事を良く知っている俺としては、見かければ誘うことを心に決めている。
「でも、明日まだ仕事だよ? 大丈夫?」
「あ、俺、明日休むんで」
何気なく言ったつもりだが彼女は聞き逃さない。それまで緩んでいた目元が厳しさを取り戻す。
「なん……だと?」
「有休です」
「ふーん……」
秋田さんは唇をとんがらせ、斜め下を向いてしまった拗ねているときにやる仕草だ。
「どっか行くの?」
「温泉に……行こうかなって」
「私は?」
「いや……その……無料券を一枚だけ頂きましてね……」
秋田さんのじっとりとした視線が息苦しい。
「私は?」
「お、お仕事、頑張ってください」
「そっか……一人が好きなんだね……」
そんな事は無い。一緒に行けるなら、是非一緒に行きたいです。
「じゃあ、お土産よろしく」
そんな俺の気持ちは露知らず、秋田さんはしれっとそう言った。
「は、はい!!」
全く、我ながらヘタレで嫌になる。何でこう、上手く気持ちが伝えられないんだろう。こんなのだから、いい年して女の子の手すらロクに握った事ないんだな。ちなみに、秋田さんの手は一度だけ触れそうになった事がある。白くて細くて滑らかな素敵な手だった。触れなかったんだけどね。
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