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おれとくぬぎに広い場所は必要ない。一間あれば十分だ。けれどもプライバシーは重要だ。どうしても守る必要がある。おれ自身は気にしないが、くぬぎが酷く気にするから。口に出すことはないが、薄過ぎる壁の部屋は嫌いなのだ。目を見開きつつ嘆願することはないが、窓の外を頻繁に人影が行き来するのは厭なのだ。結果、おれたちは夕景がきれいな高台のワンルームマンションに引っ越す。おれたちのような貧乏人には法外な家賃を見返りに。
おれたちの部屋に大きな荷物は殆どない。くぬぎが臥せるベッドと二人掛けのソファくらい。あとは卓袱台代わりのテーブルと洗濯機、小型冷蔵庫。テレビなどの家電製品とステレオデッキ、CDラック。最後のCDラックは、身長百八〇センチのおれの胸まである大型だが、これはくぬぎが音楽好きのため。おれ自身はどんな音楽が好きなのか、自分で良くわかっていない。ただし、くぬぎが聴く曲は、すべてすんなりおれの耳に入る。が、そのくぬぎが聴く曲は節操がない。ジャズとオペラと演歌は少ない。ロックとクラシックと邦楽が多い。携帯/スマートフォンやPCからダウンロードが日常的になるとCDの数は頭打ち。後にスマホに代わる携帯電話が固定電話が部屋から追い出し、大型PCもノートパソコンに入れ代わる。後者には大容量の小型ハードディスクが繋がっている。
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