第一章  ー 出奔 ー

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 出て来た足軽たちは、もともと信廣を慕う者たちばかりなので、戦場でも信廣の近くでいつも戦っていた。だから足軽と言えども信廣の見知った顔ばかりだった。  皆、口々に信廣の配下に成りたいと申し出たが、足軽は地元の農民が兼業でやっている者が殆どで、地縁は切れない者たちばかりだった。  信廣が、 「これから放浪の旅に出るのだ。もう若狭へは帰ってこれぬやもしれぬ。お前達の申し出は儂も嬉しいが、家に親、妻、子供が居る者の同行は叶わぬ」  そう言うと、肩を落とす者が殆どだったが、中には元々身寄りの無い者もいて、その者たちは付いてゆくと言って聞かなかった。 「儂もいまや浪人も同然、日々の食いものは何とか工面するが、俸禄は仕官が叶うまでは無いぞ?」  と諭すように言ったが、それでも三人程が「付いて行く」と言い張るので、しかたがなく一行に加える事にした。  しかたがなく、とは言ったが、実のところ、己の才覚を信じて付いて来てくれると言う者が、数人でも居る事に、内心は嬉しくてしかたがなかった。  こうして、少ない人数ながらに、武田信廣武士団とも呼べる原型が、ここに誕生したのだった。 『この者らの為にも、何とか我が才覚一つで、伸し上がって見せよう!』と、信廣は心に誓うのであった。
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