第三章  ー 北行 ー

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 女中に案内され、謁見の間に入ると、家臣団が両端に居並び、部屋の上座に当主の光政が鎮座して信廣の登場を待っていたようだ。  その様子を見て、信廣は直ぐにその場に座り平伏し、挨拶の辞を述べようとしたが、それを遮るように、 「信廣殿、主従ではないのだ、堅苦しい挨拶は結構、面を上げられよ」  と口調は柔らかいが、その中でもギラギラと不敵な印象を受ける声が聞こえてきた。  これが奥州の雄、南部光政の声だった。  そして、その声に応じて顔を上げると、その声と同じように、陸奥で一大勢力を築き上げようとしている領主らしく、威厳を感じさせる顔つきの人物だった。  が、威厳を感じると言っても、落ち着いているというよりも、眼つきは鋭く、如何にも野心家の印象を受ける人物だった。 「信廣殿の御噂は常々聞き及んでおりまする。遠路遙々(えんろはるばる)、この奥州の奥地まで、よくぞおいでくだされた」  光政は一拍おくと、 「当家に仕官の口をお探しとか?同じ甲斐源氏一族として、お力になれればと考えておるが、わしは回りくどい事は嫌いなのでな、単刀直入に言おう」  続けて、 「見張って貰いたい家がある。これをお受けいただければ、信廣殿に所領を授けよう」     
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