第三章  ー 北行 ー

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 若狭の山中で、九郎左衛門をはじめ、付き従うと言ってくれた者たちのために、粉骨砕身の決意をした時の気持ちを思い出した。  鎌倉で某を慕い、武士団を結成してくれた足軽たちの想いが、甚く胸に沁みた時の気持ちを、今改めて思い出した。  それまではどこか、計画の悲観から、決死の覚悟というか、捨て鉢な思いを抱いていたかも知れない。しかし妻の言葉を聴いて、何としても生き残ろう。付いてくる家臣たちと共に、生き残ることを、最大の是とするを旨と、心に刻んだ。 「そなたの言葉に、曇天が晴れた思いぞ。そなたとこの子のためにも、必ず生きて帰って来よう」 「どうぞ、御武運をお祈り致して居ります」  深々と礼をする妻に、そう言葉を掛けて、信廣は決意を新たにした。
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