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第二章 ー 鎌倉 ー
信廣一行は、一路東を目指して進んでいた。
若狭から南の山間部を越え、近江(滋賀県)に入り、琵琶湖の西岸沿いを南下し大津へ、そこから東行して美濃(岐阜県)、尾張(愛知県)と進み、そこから東海道を東に向かった。
東海道の風光明媚な海と、勇壮な霊峰富士を眺めながら、一行は感嘆の声を上げる。
そして駿河湾の富士川へ達した辺りから海をはなれ、富士川沿いを上流に向かって北上し、霊峰富士を右手に見ながら進んで行った。
目指すは武田家の本領、甲斐国(山梨県)だ。
九郎左衛門は、出発してすぐに行き先を信廣に尋ねた。
「信廣さま、行き先は決まっているのですか?」
「いや、まだハッキリと決めてはおらぬ。が、方向は東じゃ」
「東?と、申されますと?」
「東は坂東じゃ、我ら武士はその坂東の地で生まれた。一旗あげるならば坂東の地の方が、甲斐性が有るというもの。それにな、甲斐性の甲斐は、われら武田の故地じゃ。本家の甲斐武田家がわれらを迎え入れてくれるやも知れぬので、訪ねてみようと思っている」
そんなあても無いような事を言った信廣であったが、実は明確な意図はあった。
足利将軍家からの影響がない場所へ行きたかったのだ。
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