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《一日目》
僕にとっては、記録を撮り始めて最初の朝なのだから…一日目ということになる。だが、彼女と『犯人』にしてみれば、何日目なのか分からないぐらいに時間が経っているのかもしれない。
それは、彼女がこの生活に慣れている姿から想像がつく。
『犯人』から与えられる食事は、朝と夜だけ。それを彼女は、自分の意思で量を調整しながら食べる。彼女は、生き残るために生活のコツをつかんでいる様に見える。
『犯人』もまた、この生活のルールを彼女に植え込んでいた。
彼は、昼間はどこかに出掛けている。そして、彼が帰ってくれば彼女は彼の膝の上に縛られた手を乗せて、自分から口づけをする。
それが当たり前のことの様に行われていた。それは、僕だけが理解できないルール。僕は、あくまでこの輪の外の存在に過ぎなかった。
そして、僕はまた苛々し始める。
僕は、あの二人のことを何も知らない。たまたま、見えてしまったに過ぎない。少し、彼らについて考えてみよう。
彼らは、何なのだろう?
ずいぶん前に話題になった、映画の様に犯人と人質が恋に落ちていて…目の前に存在しているこの光景は、二人が望んでいることなのかもしれない。
しかし、それにしては、あまりにも彼女が怯えている様に見える。
それも『犯人』が、ただのサディストというのなら、簡単な話だ。
『犯人』は、彼女を淫らな娼婦のように蔑みながら扱うことに快楽を感じている。そして彼女は、淫らで淫靡な娼婦を演じることで生かされている。
これは、交換条件の一つなのかもしれない。
そう考えれば、簡単な話だ。僕が犯人だとしても、同じことをしただろう。彼と僕は、同類なのかもしれない。
傍観しているだけか。
実行しているか。
そこに、僕と彼を隔てる差が存在している。
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