リバーシ

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リバーシ

 ある日、くるみ割り人形が話しかけてきた。彼は長い間倉庫の中で独りぼっちだったと言う。それ故か、彼は饒舌だった。ことあるごとに木製の口腔をコトコトと動かして喋る様は奇妙だった。 僕は話すのが得意ではなかったため、聞き手に回っていた。日が暮れないうちに仲良くなれたのは、饒舌な彼と、無口な僕の相性がよかったからであろう。    そんななか、ふと、先日の誕生日に貰った、白と黒の駒を使うボードゲームを思い出して彼に誘ってみた。序盤の攻めは良かった。ところが、後半になって負けてしまう。その後なんども勝負を挑むが、中々どうして一度も勝てない。何故勝てないのだろうと悩んでいると、案外、易々と教えてくれた。 「人生はリバーシと一緒さ。例えば、誰かに優しくすると、いずれは自分が優しくされる。逆に誰かに酷いことをすれば、それが還ってくる。これが因果というものだ。そして大抵の場合、運は平等に巡る。では、それを踏まえて考えてみよう。駒を取ることを、幸運が来たと仮定してみよう。となると反対に取られることは不幸になるね。君の場合は序盤に駒を多く取っている。これは幸福。つまり、終盤で運が尽きかけてしまう。そこで、最後に勝つために、序盤に不幸を呼び寄せる。勿論、負けない程度にね。するとどうだろう、瞬く間相手の駒を沢山取れるのさ。運というものは常に平等。なにかを得るためにはある程度の対価が必要なのさ。おっと、そろそろ時間のようだ。楽しかったよ。ありがとう」 ~~~  いつの間にか、ベットで眠りこけていた。ふと、視線を上げる。先程と打って変わって物静かないつもの自室に戻っていた。  机の上の彼はもう、二度と口を動かすことはないだろう。  少年は、くるみ割り人形の言葉の意味が、分かった気がした。
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