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「僕を馬鹿にする為にわざわざそこで待っていたのか?ご苦労な事だ。さぁ、要件は済んだろう?さっさと帰りなマタタビ」
「あぁ?良いのか?そんな態度をとっちゃって。今日は、ちょっとした情報を持ってきてやったのに」
マタタビがニヤニヤと怪しげに笑い始めた。
こんな駄猫だが、顔の広い情報屋だ。
客層も下水道の鼠から金持ちのペットまで繋がりがあるので仕事だけは保証されている。
「…何の情報だい?」
「お前さんの親父の情報」
父は僕が幼少の頃に警察犬と呼ばれ、人の役に立つ仕事をしていると母から聞いていた。
母は僕が成犬になる前に他界し、僕は今の主人に拾われたのだ。
なので、僕は父親の顔も性格も殆ど覚えていないのだ。
その父の情報に興味を持ってしまうのは当たり前の事と思うわけだが…
「今更、そんな話を持ってこられても興味は無いよ」
そう、母を捨て僕から離れた父親など今更どうでもよいのだ。
マタタビは目を丸くして意外そうな表情を浮かべながらブツブツと何か言っている様だが、この距離だと聞き取れない。
そんな事をしているうちに夏樹は昼食を終え、笑顔で僕の頭を撫でリードを手に取るといつもの散歩道へと歩み始めた。
「じゃあな、マタタビ。あまり悪さをするなよ?」
「ふん!大きなお世話だってんだッ?」
マタタビは不機嫌そう面持ちで木陰から姿を消し、僕等もその場をあとにした。
しばらく行くと、海上自衛隊なる組織の基地が見えてきた。
何とも雄々しい船が並んでおり、その船でこの国の海を守っているそうだ。
夏樹もこの組織の一員であり、船の乗員だと言っていたが今は下働きを任されているらしい。
いつも、階級なるものを上げたいとぼやいているが中々難しいようだ。
海上自衛隊の基地を抜け、民家の建並ぶ中舞鶴に入ると、これまた美味しそうな香りが漂ってくる。
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