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―7月―
眩しい日差しに照らされたアスファルトは必要以上に暑さを増し、僕の体力を不必要に浪費させる。
まったく、毛玉の様な姿の僕にとっては甚だ迷惑なもんだ。
とは言え、僕の主人である“葉山 夏樹”との散歩は楽しいのでやめられない。
赤いリードを僕の首輪と繋ぎ、この舞鶴市を一緒に歩いているだけで、犬の嵯峨なのか尻尾が意気揚々としてしまう。
しかし、暗い赤レンガの建物の間を通っていると、少し気味が悪い。
堂々と建ち並ぶ赤レンガは、昔は倉庫として使われていたそうだが、今や観光地にも名があがる記念館だそうだ。
まぁ、犬である僕には関係の無い話である。
しかし、この記念館の中にある喫茶店では美味しそうな“カレー”なる食べ物があるらしく、その香りは犬である僕の鼻を通して食欲を促進させる。
人生しかり、犬生で一度は食べてみたいものだ。
ちなみに、我が主人・夏樹もカレーは大好きだそうで、今日もまたここで昼食をとるみたいだ。
僕に繋がれたリードは夏樹の手から離れ、店の入口に立つポールに結ばれた。
…夏樹。出来れば木陰のあるところにしてくれまいか?
この熱した鉄板の様なアスファルトの上では僕は干からびてしまいそうだよ。っと鳴いてはみたものの、そんな思いも届かず夏樹は意気揚々と店内に消えていった。
はてさて、我が主人にも困ったものだ。
仕方ない、少しでも体力を温存するために座って待つとしよう。
熱に身体を慣らす為、少しずつ腰を下ろしてゆく。
「よぉ、こんな暑い日差しのなかアスファルトに腰を下ろして大変だなぁ」
隣の木陰から聞き覚えのある忌々しい声が聞こえてきた。
このくそ暑い時に僕に嫌味を言うヤツは一匹しかいない。
「マタタビよ。お前は、僕に嫌味を言う為に生まれてきたのか?」
木陰に居る黒い猫は楽しそうに笑みを浮かべながら涼んでいる。
まったく、野良猫とは自由に生きている性なのか礼儀を知らぬ様だ。
「ハハッ、お前の為に俺が産まれてきたってのか!?自惚れにも程があるぞ?毛玉ッ子」
本当に口だけは達者な黒猫だ。
このリードが無ければ目にもの見せてやるのだが…
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