5. 「馬鹿」と「イイコ」

46/71
前へ
/273ページ
次へ
「……とりあえず、振られはしなかったよ」 “振られはしなかった”……? 曖昧なその言葉に、頭の中で疑問符を浮かばせる。 「返事は急がなくていい、って言ったら保留ってことになった」 「あ……なるほど。 えーっと……」 振られてはいないんだから、良かったのか? いやでも、結局付き合えてはないんだから、良くはないのか……? 自分で振った話題のくせに、どう反応すればいいか分からず頭を悩ませる。 けれど相川さんは特に気に留めていないようで、話を続けた。 「まあ、今日また飯食いに行くんだけどね」 「え、本当ですか?」 うん、と微笑む相川さんは、本当に嬉しそうで。 ……やっぱり、寝不足の原因を打ち明けなくてよかった。 折角楽しそうにしてるのに、わざわざ面倒ごとを持ち込んでそれを台無しにするわけにはいかない。 私の選択は、正しいもののように思えた。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

599人が本棚に入れています
本棚に追加