5. 「馬鹿」と「イイコ」

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「今日、送ってやれないけどへーき?」 鍵を施錠し終えた、申し訳なさそうな相川さんの声色。 この後、加瀬さんとの約束があるから言ったのだろう。 それに対し、「いいですそんなのっ」と、手と首を横にぶんぶん振る。 「むしろ、歩いて帰るのが当たり前なんで……。 逆にすみません、いつも送ってもらっちゃって」 一応断ってはいるが、なんだかんだ相川さんにはいつも送って行ってもらってるのだ。 これ以上お世話になったら、バチが当たってしまう。 「いいよ、そんなのは別に。 それよりも」 言いかけて止まる。 不思議に思いつつも次の言葉を待つが、「やっぱいいや」と有耶無耶にされてしまう。 「また今度聞くわ。 じゃ、気をつけて帰んなよ」 ………なにを? 曖昧にしたまま、相川さんは駐車場の方へと消えて行ってしまい、疑念だけが胸の中に残った。
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