5. 「馬鹿」と「イイコ」

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地元の最寄駅に到着し、改札を抜ける。 そしていつもと同じように、駅前通りから少し外れた、薄暗い一本道を歩く。 やっぱりこの道は薄気味悪い。 人通りがまるで皆無だし、外灯もぽつぽつとしかない。 「…………」 今頃、加瀬さんと一緒かな、相川さん。 先週は保留と言われたらしいけど、今日はどうなるだろう。 ……それにしても大人っていうのは、相手が自分を好きって分かってる状態でも、ご飯に行けたりするものなのだろうか。 というかまず、保留ってなんだ。 「好き」って言われて、「付き合う」か「振る」以外の選択肢があることに、密かにビックリしている。 到底、子供には理解出来ない世界なんだろう。 ───なんて、考え事をしているから気付かなかった。 「咲さん」 呼ばれてからではもう遅い。 私は馬鹿だ。 気をつけて、って言われたのに。 目の前にはいつ現れたのか、あのお客さんが笑いながらそこにいた。
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