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「………な、なんでですかっ?
あ! お金の心配でしたら大丈夫ですよ、ぼ、僕が払うのでっ」
「ちが、そうじゃなくて」
「じゃ、じゃあ、なんでですか?」
再び距離を詰められ、流石に我慢の限界が来たようだ。
「やめてください」
自然と冷たい声が溢れた。
すかさず詰められた分以上の距離を取り、拒絶の意思を示す。
「すみません。ご飯を食べに行く気はないですし、こういうことされるのは……迷惑です」
最後に「すみません」ともう一度頭を下げて、足早にこの場を立ち去ろうとした──が。
その腕を、痛みが走るほどの力で掴み取られてしまう。
「っ、離してください」
振り返ると、先ほどの笑顔が嘘のように、怒りを滲ませたお客さんの表情。
「な、なんでだよぉ!」
やばい。
早く逃げないと。
本能がそう叫んだ。
「し、知ってるんだぞ、いつも他の男と一緒に帰ってることっ。
な、なんで僕だけっ、なんで僕だけ駄目なんだっ」
肩をがっと掴まれ、怒り任せな言葉を浴びせられる。
あまりの恐怖でなにも言い返せない。
知らなかった。
この人が、こんなにも怖い人だったなんて。
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