5. 「馬鹿」と「イイコ」

53/71
前へ
/273ページ
次へ
………え? 突然のことで、頭が着いていかなかった。 なんでこの人は地面に突っ伏していて、 「何してんの、オッサン」 ───どうして、相川さんが、その人に掴みかかっているのか。 訳が分からなすぎて、逃げなきゃ、という意志すら湧き上がらなかった。 「な、なんだよ、お前っ。 は、はな、離せよぉ!」 「うるせーよ」 言い切ると同時に、男の顔を思いっきり殴る相川さん。 「あぐっ」と声を上げ、吹っ飛んだ男は、敵わないと思ったのかその場から逃げようとする。 しかし、相川さんはそれを許さなかった。 相川さんは男の胸ぐらを掴み、私を一瞥する。 「……なあ。 オッサン、あの子に散々好き勝手やったんだよな」 「ひ、ひいっ……!」 「必死に足掻いて、抵抗するあの子に……アンタ、なにしようとしたんだよ?」 「ぼ、僕が悪かった! だから」 「見逃してくれって?」 コクコク、と懸命に頷く男に、ふっと笑みを落とす相川さん。 「無理だよ」 そう言って、もう一発、男の顔に拳を入れた。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

599人が本棚に入れています
本棚に追加