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「……本気で焦った」
はあー、と長い溜息が首筋に当たる。
もう離してもらおうとは思わなかった。
「あんな相川さん、初めて見ました」
「あー……、覚えてねーや。どんなだった?」
「え、覚えてないんですか?」
「うん。もー頭真っ白だったから、俺」
「えっと……なんか、鬼みたいでした」
「……そりゃあ、鬼にもなるよ」
そこでやっと身体を離され、改めて向かい合わせになる。
けれど今度は顔の方に手が伸ばされ、何事かと身構えると、「汚れてる」と笑いながら汚れを拭ってくれた。
「……ありがとうございます」
「いーよ、こんくらい」
「あ、じゃなくて。
……助けてくれて、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げる。
本当は、こんなんじゃ足りないくらいだ。
相川さんは、何も言わず、切なげに微笑んだ。
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