5. 「馬鹿」と「イイコ」

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「……本気で焦った」 はあー、と長い溜息が首筋に当たる。 もう離してもらおうとは思わなかった。 「あんな相川さん、初めて見ました」 「あー……、覚えてねーや。どんなだった?」 「え、覚えてないんですか?」 「うん。もー頭真っ白だったから、俺」 「えっと……なんか、鬼みたいでした」 「……そりゃあ、鬼にもなるよ」 そこでやっと身体を離され、改めて向かい合わせになる。 けれど今度は顔の方に手が伸ばされ、何事かと身構えると、「汚れてる」と笑いながら汚れを拭ってくれた。 「……ありがとうございます」 「いーよ、こんくらい」 「あ、じゃなくて。 ……助けてくれて、本当にありがとうございました」 深々と頭を下げる。 本当は、こんなんじゃ足りないくらいだ。 相川さんは、何も言わず、切なげに微笑んだ。
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