5. 「馬鹿」と「イイコ」

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どうしよう。 怒らせてしまった。 あの優しい相川さんを。 頭の中は「どうしよう」で一杯だった。 「……俺に言ってくれれば、極力アイツと関わらせないように出来たし、周りにも配慮させることも出来たよ。 こうやって、前城さんが怪我することもなかったかもしれない」 「……は、い」 「一人でどうにか出来ると思った?」 思った。 でも正しくは、「一人でどうにかしないとだめだ」と思っていた。 「……すみません。こんなことになるとは、思わなくて」 ふー……、と溜息を吐かれたのが聞こえた。 呆れられたのかな。 それを目の当たりにするのが怖くて、顔が上げられない。 そんな私の胸中を知ってか知らずか、相川さんは「前城さんはさ」と言葉を続けた。 「仕事の物覚えもいいし、作業も早いから、大抵のことは1人でやれちゃうよね。 そこに関しては、俺も結構買ってる」 そんなことない、という意志を込めて、頭を横に何度も振る。 私には勿体無い言葉だ。 そんな言葉、私がもらっていい言葉じゃない。
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