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ローマ字でアミ、と書かれた札がかかったドア。
その前で足をとめる。くすくす、と笑い声が中からする。
二回ノック。
それからゆっくりと、ドアを開ける。
『なあに、パパ?』
白いワンピースを着た少女がベッドの上で微笑んだ。膝の上には、さっきとんできた熊のぬいぐるみ。
「あの……」
少女は首を傾げる。
『パパ、ママはいつになったら帰ってくるの? ねえ、パパ』
実際にこうしてみてみると、小学校の低学年ぐらいの印象だった。
ああ、でも実際に死んだ時の姿をしているとは限らない、って以前言ってたよな、と頭の片隅で思う。
「あの、俺パパじゃないんだけど。その……」
『パパじゃないの? じゃあ、だぁれ?』
「ええっと、榊原といいますが」
何、名乗ってるんだろう……。
『さかきばらさんね、こんにちは』
少女は微笑む。よくよくみてみたら、彼女の視線はしっかりと龍一をとらえてはいない。
目が、見えない?
でも、この前は目があったよな? そんな気がしただけ?
『あみと遊んでくれるの? パパはお仕事で忙しいし、ママは帰ってこないし、あみ独りで寂しかったの』
「独りで寂しかったんだ」
『うん。あみね、自転車に乗ってたらトラックとぶつかっちゃったの』
「それは……、痛いね」
『うん』
交通事故?
『そしたらね、怪我は治ったけど目がね、よく見えなくなっちゃったの』
熊の手足をばたばたさせて、遊ぶ。
『だからね、危ないからって学校行けないの、今。つまらないの』
「そっか」
交通事故、は死因とは関係ない?
『ママはね、あみにお留守番しててねー、ってスーパーに行ったきり帰ってこないの。スーパーどこにあるのかしら』
首を傾げる。
すぅっとゆっくり息を吸う。
上手く、事態が理解出来ない。
こんこん、
背後でドアがノックされて、はねるようにして避けた。
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