プロローグ

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 昔の映画館は暗かった。  ひとたび中に入ると席をつくのにも覚束ないほど暗かった。  そんな時、入り口から入る前に片目を瞑っておくと、中に入った時に、暗闇に目が慣れる時間を短縮出来る。それを暗順応と言うのだそうだ。  人は未来に起こりうる不都合に応じて色々な工夫をして、それを避けようと努力してきた。それでもまだ不幸な現実はどうしようもなく訪れる。  そして、その不幸を踏み台にして何とか幸せにもっていこうと努力する。  それを何千年も繰り返してきた。  誰もが幸せでありたいと願うはずなのに、絶対的な不幸の数は減っていないような気がする。  それが摂理だと言ってしまえばそれまでだが、それを何とかしようとするのが、人間の愚かなところであり、また可愛いところである。  世間ではバーチャルなどという世界があるらしい。何でも仮想世界を体験できるらしい。どうせなら、それを仮想と思わせない機械も作って欲しいものである。それでなくては十分に楽しめない気がする。  『日常』に含まれる幸や不幸。それからは逃れられないということか。  その逃れられない『日常』という現実の中で今日も歩かなくてはいけないのか。
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