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飲み屋で食べた焼き牡蠣は、それほど旨いものではなかった。
『そういえば、新鮮で旨い牡蠣を食べていないな』
感慨にふけると同時に、私は忘れていたことを思い出していた。
近所に治安のために夜には閉鎖される公園があった。池があり、その周囲に遊歩道が作られている。木々も多く、立派な公園だったが、反面、街灯はあるものの暗がりが多い場所になっていた。
病院の裏手で、夜になると人通りも少なくなる。子供の頃は「夜に気持ちが悪い場所ナンバーワン」でもあった。
特に事件が起きたというわけではなかったが、地元で暮らすと妙な噂をよく聴いた。
――いわく、花壇に多くの猫が植えられていた。
――いわく、甲羅の割れた亀が泳いでいた。
――いわく、土手が崩れて大量の右手が出てきた。
などなど。
私も子供の頃に学校で聴いたし、地元の父や祖母もなにがしかの話は聴いていた。
ただ、表通りから離れていて自動車の通りもないせいで、日中には普通に子供連れが遊びに来ていた。その光景を見ていれば、いたって普通の公園だった。
公園の中に開けた場所があり、季節によって様々な店がやってきた。公園の維持費のため、と聞いたことがあった。それはラーメン店だったり、B級グルメだったり、祭りの屋台だったり、いろいろだった。
ある年の晩秋、期間限定の牡蠣小屋が出店した。先に配布されたメニューのチラシを見ると、そこそこいい値段だった。
小屋は安普請だが、安くて美味いと評判がたった。エアコンも設置されていて、残暑の厳しい秋には地元民の憩いの場所になった。
私も興味を持ったが、独り身では申し訳ないという意識があった。行かずにいると、家族が不思議そうに言った。
『牡蠣小屋に行った?』
『いや…… 一人で行く場所でもないだろう』
『そんなことないよ。あきちゃんなんて、一人で行って晩酌して帰ってくるって』
『高そうだし』
『そんなことないぞ。そうたくさん食べれるものでもないからな』
父や母、妹に言われ、私は店に行く気になった。
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