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ぐしゃ。
そして、ばっしゃーん。
水しぶきをあげて、頭のへこんだパパだったものが水に落ちる。パパは泳ぎが得意だったはずなのに、それはぶくぶくと泡を出しながら、海の底深くへと沈んでいった。
「う……うああ~ん! あああ~ん!」
ママの血とパパの血で体中をどす黒く染めた私は、弟が生まれてからこんなに泣いたことは無いってくらい、大声で泣いた。
自衛隊の灰色の船が私のボートに近づいてくる。
もう終わったんだ。これで私は助かる。
そう思うと、私の泣き声は止まらなかった。
『……鳴き声っ! 擬声行動確認。対象を感染者と判断する。許可願います』
『許可する』
――パンっ
乾いた音が海に響いて、私は頭が熱くなった。
鳴き声?
ママもパパも近所の人たちも大声で叫んでいたあの声を私は思い出す。
みんな、泣いていたのかもしれない。
たぶん、大人たちはずっと泣いていなかったから、泣くのが下手になっちゃったんだ。
海と空がくるんと入れ替わったのを最後に、私の目には何も見えなくなる。そして、私の泣き声はすぐに止んだ。
――子母神 姫子(こもがみ ひめこ)の場合(完)
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