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朝は、嫌い。
だって眠いから。
いつもは目覚ましアプリが音楽を鳴らして、隣の部屋の弟がそれを止めに来るまで起きない私が、今日はなぜだか目が覚めた。
スマホを見るとまだ5時半。
私はカーテンの隙間から差し込むお日様の光を睨むと、ボーっとしながら布団の上に広げておいたカーディガンを肩にかけ、もこもこウサギの室内履きをつっかけた。
つい最近まであんなに暑かったのに、今はもうちょっと寒い。
私たちの住んでる鹿翅島は、高い山も無いし四方は全部海だから、季節ごとの寒暖の差が激しいんだって担任の先生が言ってたのを思い出した。
小さくあくびをしながら部屋を出る。
私が部屋を出るのを待っていたかのように、トイレの方から水を流す音が聞こえた。
ふと見ると弟の部屋のドアが開いてる。
弟の武尊もトイレに起きたんだ。
つい最近まで一人でトイレに行けなかったくせに、小学生になった途端に生意気になった5歳下の弟の顔を思い浮かべて、私はちょっと驚かせてやろうと廊下の角で息をひそめた。
「ヴぁあ……アぁあぁァァ……」
トイレの向こう、リビングの方から変な唸り声が聞こえたのはその時だった。 同時に、ずるずると何かを引きずるような音がこっちへ近づいてくる。
トイレのドアが開く音がして、弟の「ん~、ママ?」と言う寝ぼけ声が続いて聞こえた。
……驚かせるのはやめ。ママも起きてるなんて、今日は変な日だわ。
ママもトイレだったら、私の方が先に入らせてもらおう。
そう思って廊下の角を曲がった私は、声を掛けようとしたママが弟の首にかぶりつく姿をまともに見てしまった。
首の半分以上をがぶりと一噛みで。
悲鳴すら上げる間もなく、弟の頭はぐらっと傾いて「ぶちっ」と音を立てて肉が千切れ、「どん」と廊下に転がった。
廊下の窓から差し込むお日様の光の中、弟の目がぐるぐるとものすごい勢いで動く。
頭のない弟の体にかぶりついているママは、いつも着ているグレーのパジャマを赤黒く染めて、無心にもぐもぐと口を動かしていた。
弟の目の動きが止まる。ママを掴もうとしていた手もぶらんと落ちる。
そこまで見て、初めて私の時間が動き出した。
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