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「マ……マ?!」
……時間なんか動き出さなきゃよかったのに。
思わず声を出してしまった私に向かって、ママの顔がぐるんとまわる。
自分の唇や頬の肉も食べてしまったその顔は、ハロウィンの骸骨みたいに剥き出しになった歯が並んでいた。
弟の首から勢いよく噴出した血が目に入っても、ママは何も感じないように瞬きもしないから、血糊で濁った眼玉は、白目も無く真っ黒。
たぶん、見えてないと思う。
ただ、私の声だけは聞こえたみたいで、そのママだったものはのそりと立ち上がって、あの恐ろしいうなり声をあげながら、ずるりずるりと歩き出した。
「ヴぁあぁぁ……アァァあぁァァアヴァぁ……」
近寄ってくる。
近寄ってくる。
ゆっくりと。
ゆっくりと。
私はまた時間が止まってしまったみたいにその場に座り込み、ただそれをぼんやりと見ていた。
弟の暖かい血で化粧をしたママは、湯気を上げながら私に顔を近づける。
その口がぱっくりと開いたのを最後に、私は諦めて目を瞑った。
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