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――ガァン! ガァン!
「ヴぁあぁぁ……アァァあぁァァアヴァぁ……」
――ガァン! ガァン!
突然、ガレージのシャッターがものすごい音を立てる。
体当たりでもしてるみたいな音。それから、ママと同じ、あの恐ろしいうなり声。
パパは「エンジン音で寄ってきたな」とつぶやいて、ブォンブォンとエンジンと、ついでにクラクションも鳴らした。
――ガガガンッ! ゴゴンッ!
その音に、更にガレージが激しくたたかれる。
「パパ! やめて!」
「あいつらの動きは遅い。ここに集めておいた方が……」
まるで近くにカミナリでも落ちたみたいな音を立ててシャッターが引き裂かれ、私たちの車がお日様に照らされた。
パパは一気に足を延ばす。
車は鎖を外されたワンちゃんが走り出すように、タイヤから煙を出して急発進した。
「……逃げるのに都合がいい」
パパはハンドルを右に左に動かして、家の前に行列を作ってる人たち――知ってる顔もあったけど、みんな自分で自分の唇を食べちゃったガイコツみたいな顔の人たち――を弾き飛ばして車を走らせた。
正直言うと、そこから先の事はあまり覚えていない。
私はパパに何度も「やめて!」とお願いし、パパは車を走らせ、唸り声をあげる街の人たちを次々と轢き殺していった。
途中「子母神さんっ! 助けてっ!」と言う声が聞こえたような気もしたけど、そう言っていた人も、パパは躊躇なく轢いていた。
気が付くと、車は港に止まっていた。
いつもはうるさいウミネコの声も聞こえない。
ただ静かに防波堤に打ち付ける波の音だけが辺りに響いていた。
パパが車からボートを下ろし、海に浮かべる。私に先頭に乗るように促して、パパは一番後ろに乗った。
「姫子、いいかい? ゾンビは頭をつぶせば動かなくなる。それから、ゾンビに噛まれたものは同じゾンビになってしまうんだ。ゾンビに噛まれたものを見つけたら、迷わず頭をつぶすこと。分かったね?」
「うん。パパはなんでそんなことを知ってるの?」
「……映画……いや、大人は皆知っているものだよ。それより、ゾンビを見つけたら必ず頭を潰しなさい。たとえそれがママや弟であってもだ。いいね?」
「……うん。わかった」
私はパパからすごく重い銀色の工具を手渡されながら頷く。
パパがオールをこぎ、ゆっくりと水面を走り出したボートの上で、私はほっと肩の力を抜いた。
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