歌え。

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「この歌、好きだな。」 「そうか。」 彼が、外した片方のイヤフォンを手に取り、自らの耳に差し込む。 「家にはまだ沢山曲がある。でも、これが一番歌っててスッキリするんだ。」 もう一度押される再生ボタン。 もう一度流れる曲。 あたしたちは向かい合って、あと数十センチで触れてしまいそうな距離に居た。 濡れた前髪で隠れた、伏せた目。 その瞳には何を映すのだろう。 「ねぇ。」 声をかけても、表情は変わらない。きっと、曲に気を取られて聴こえないのだろう。 それでも良い。 「あたしは、凛音くんの味方でいたい。」 「味方とか、いらない。お前が居たら、それで良い。」 胸が、心が、ぎゅっと締まった。不思議な、初めての感覚。 頬に熱が集まって、唇が震える。 「そんなこと…初めて言われた。」 彼が顔をあげて、ハッとした表情になる。 「あたしは、ここに居る。凛音くんの側で、絶対。」 きっと、あたしは泣いている。 それと同時に、笑ってもいる。 「誓うから。」 片耳の音楽が終わり、静かになる。 時間が止まったように。 「ありがとう。」 少し乱暴に頬を拭い、はっきりと彼を見ると、 泣いていた。 「ありがとう。俺、もうずっと1人だと思ってた。これから、ずっと1人なんだって、諦めてた。ごめん、ありがとう…。」 あたしたちはずっと泣いていた。下校のチャイムが鳴るまで。
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