気づけ。

5/8
前へ
/20ページ
次へ
「ごめん。」 謝ったのは、あたしの方。 空き教室に入り、息を整えて冷静さを取り戻した後にひたすら彼に謝っていた。 「謝らないで。」 「でも、急に連れ出したし絶対恥ずかしい思いさせたし…。」 「…うん。まぁ、恥ずかしかった。」 やっぱり!とまた謝ろうとすると突然彼が右手で顔を押さえて下を向いた。 「凛音くん?」 肩が小刻みに震えている。 「本当にごめんなさい。あたし、つい、カッとなって…!」 「違う…。いや、面白すぎて…。」 「え?」 「お前、男前かよ。今どきマンガくらいだよ。あんなシチュエーション。」 そう言うと、声をあげて笑いだした。 豪快な笑いかたに、あたしもつい吹き出した。 「どうするの。教室、帰れないよ。」 「どうしよう…。」 あたしが困った顔をしているとまた彼が笑った。 「でも、嬉しかった。」 「えっ」 「女に助けられるなんて情けないな、俺も。」 その時の笑顔に、声に、胸が高鳴っている。 いや、本当はもっと前から、意識は始まっていたのかもしれない。 「あのね。」 「ん?」 「あたし、多分、凛音くんが好き。」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加