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「凛音くんも、風邪ひくよ。」
「別に良い。」
ふっと目をそらされる。
「学校に来てわざわざアイツらにからかわれるよりかは、家で引きこもってる方がマシ。」
そんなこと言わないで、と言いかけてやめる。
他人にからかわれる気持ちなんて、あたしには分からない。
それに…。
「あたしは、何も出来ない。」
拭いたばかりなのに、また涙がこぼれる。
「凛音くんを助けることも出来ない。あの人たちが、周りの目が、怖い。綺麗事しか言えないし、泣くことしか出来ない。」
あたしは、なんて情けないんだろう。
片腕で涙を拭っても、雨に濡れた制服のせいで、さらに顔面がびちゃびちゃになる。
「あたしは、情けないの。臆病者なんだよ。」
「お前は。」
叫びに近いあたしの声を、彼が遮る。
「お前は、俺を笑わないと言った。」
ぼやけた視界で、彼がまたこちらを向いていた。
「それは、絶対か。」
「…絶対だよ。」
「誓うか。」
「…誓うよ。」
すると、突然彼が近づいてきて、あたしの腕を取った。
「来て。」
雨で滑りそうな廊下をそのままにして、
あたしたちは走り出していた。
行き先も告げられずに、腕を取られたまま。
「ねぇっ、どこ行くの。」
「…着くまで言わないっ。」
なんだそれ、と思いつつあたしは彼のスピードに合わせる。
窓の外の雨は、きっともうすぐ止む。
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