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なんだこいつと思いながら、会話を打ち切り、私は黙って犬を見つめていました。
その時です。
道路に木材のような物が落ちており、軽自動車がそれに乗り上げたのです。
「ゴン」という衝撃とともに、驚いた犬が荷台から飛び出しました。首輪に繋がれている犬は、そのまま車に引きずられた状態になってしまったのです。
「あ!」私は大声を出してしまいました。
「どうかしました?」運転手は何食わぬ顔で前を見つめたまま言いました。
「犬が引きずられていますよ! 前の車に教えてあげないと!」
「自己責任ですよ。荷台に乗せるのが悪い」
「ちょっと、何を言ってるんですか! クラクション鳴らして教えたほうがいいですよ!」私は声を張り上げながらルームミラーに映っている運転手の顔を見ると、運転手は笑っていました。
白かった犬はみるみるうちに毛が焼け焦げ、皮膚が裂け、真っ赤になってしまいました。私は前を見ることができず、後部座席に深くもたれかかると、運転手の横顔を凝視しました。頬は膨らみ、目尻には笑いジワが刻まれたままです。
「何で? 何で?」私は怖くなり大声を出すのもためらうようになりました。早くこのタクシーから降りたい。それだけでした。
それから何分くらい走ったかは覚えていませんが、運転手はウォッシャー液を出しながらワイパーを動かし、フロントガラスに付着した犬の血を拭き取りながら言いました。
「駅につきました」
私は千円札を数枚置くと、「釣りはいりません」と言って、タクシーから飛び出し、駅に向かって走りました。
駅の入口近くで後ろを振り向くと、タクシーの運転手は助手席の窓からこちらを笑顔で見つめたまま、静かに頭を下げて会釈をしていました。
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