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「きゃぁぁぁぁ!」 「なんだお前は!」 「ヴぁアァァあぁァァ……」  お母さんの悲鳴、お父さんの怒鳴り声、そして気持ち悪いうなり声。  私はとりあえず一番手近にあったM-16を掴むと、階段を3歩で駆け下りた。 「お父さん! お母さん!」  寝室のドアを開けると、ベッドの上でお母さんをかばうようにして、お父さんが泥棒ともみ合っている。私は大きく銃床を振り上げると、お父さんに覆いかぶさろうとしている泥棒の後頭部にたたき下ろした。  どさりと泥棒がベッドから転がり落ちる。  しかし、その泥棒は何事も無かったようにもぞもぞと動き出し、またあたしたちの方へと手を伸ばした。  その顔。  頬から唇にかけての肉が全部なくなり、歯と歯茎が剥き出しになっている。  血まみれで、白く濁った眼をカッと見開いたそいつは、どう見てもあたしがさっきまでゲームの中で撃ち殺していたゾンビそのもの。  もう一度「きゃぁぁぁぁ!」と悲鳴を上げるお母さんと、その肩を抱くようにして後ずさりするお父さんを見て、あたしは妙に冷めた気持ちになった。  なにこれ? 夢オチ? ゲームしすぎで夢にまで見るようになった?  お父さんたちが若いカップルのように抱き合ってる夢なんか見たくないよ。  あたしは落ち着いて銃をゾンビに向けると、ヘッドショットを狙って引き金を引いた。 ――ぱぱぱぱぱぱぱぱっ  規制前の高威力のガスガンが火を噴く。サバゲーで使っても回収不要の土にかえる樹脂製BB弾は、近距離で打てば中身の入ったアルミ缶も貫通する威力を持っている。  それがまともに命中したゾンビの眉間は、血を噴き出してぐちゃぐちゃになった。  それでもゾンビの頭は吹き飛ばない。 「BB弾じゃダメかぁ」  もっと集中して打ち続ければ倒せるかもしれないけど、弾がもったいない。  あたしは、床に倒れたゾンビに近づいて、鳴りつづけている目覚まし時計を止めると、銃床で頭をしっかりと潰した。 「……お父さん、お母さん、大丈夫?」 「あ……ああ、彩萌、助かったよ。と……とにかく警察を呼ぼう」  警察だって。お父さんは夢の中でも真面目だ。  お母さんの肩を抱きながらスマホで警察に電話を掛けるお父さんの横で、あたしのスマホが「ピロン♪」と鳴った。
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