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部屋に案内されて一通りの説明を受けた後、女性スタッフは丁寧にお辞儀をして部屋を出て行った。
モダンなインテリアとシックな色調でまとめた部屋のクローゼットにキャリーケースを置くと、先ず大きなガラス窓を全開にした。
真夏のこの時期でも心地の良い風が部屋全体に行き渡っていった。
「今無事にホテルに着いたよ。
相変わらず素敵なホテルです。
至福の時間と自然を満喫してます」
部屋から外の景色を撮った画像と共に、美由紀にLINEを送った。
間も無く彼女から、義理の母親と共に映った画像と一緒に返信があった。
「お疲れ様。
ゆっくりして来て下さい。
母の具合は、まずまずです」
アルツハイマーの診断を受けた母親を心配して美由紀は、ここ数年、盆と正月に必ず帰省していた。
しかし、隼人が一緒に帰省すると言っても、それを拒んだ。
一度その事で喧嘩になったが、美由紀の気持ちも分からないでもなく、それ以降は隼人も無理に一緒に帰省する事はやめた。
暫く、ベッドの上に横になり読みかけの村上春樹の単行本を読み進めた。
最初のうちはiPhoneにヘッドフォンを繋げてユンデ・リーのピアノを聴きながら読書をしていたが、一通り聴き終えると、ヘッドフォンを外し木々の葉を優しく揺らす風の音と鳥たちのさえずりだけで、十分癒された。
辺りが薄暗くなり…と言っても山の夕暮れは早く、まだ5時過ぎだったが、隼人は大浴場の温泉に浸かることにした。
入浴で食欲を増した後に、本館のレストランで食する和会席のコースメニューは格別に美味く感じた。
栃木和牛の鉄鍋焼きと共に、イタリア産の赤ワインをグラスで2杯飲み干した。
部屋に戻ると、それでもまだ9時過ぎだった。
エレナに連絡を取るにはまだ早いな…。
そう思い、また読みかけの本を開いた、
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