今はアデルが聴けない

2/3
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/41ページ
隼人からの連絡が来る間に食事の後片付けをした。 9時半になってもエレナの送ったメッセージは既読にならず、仕方なくシャワーを浴びる事にした。 シャワーの後、部屋着に着替えて冷えたワインとグラスを持ってソファーに身を埋めた。 スマホを見るとようやく新着の通知が届いていた。 「遅くなってごめん。 珍しく早め目のメールだね 何かあった?」 たった一言のメールでそこまで感じ取られるのか…と少し驚いた。 ワインをグラス注ぎながら返信を打った。 「ううん。 別に。 今、大丈夫なの?」 「平気だよ。 かみさんはアトリエ」 「そっかぁ。 今、何聴いてるの?」 「今? チャーリーパーカーのレコードだよ。 エレナは?」 「え? レコードって普通に聴けるの? 驚き! エレナは Lee FieldsのWish You Were Hereだよ」 「なんか最近のエレナの音楽の趣味、 時代と逆行してない?」 「そう? 誰のせいよ…笑」 「俺のせいなら、 嬉しいな」 「ねぇ」 「なに?」 「前に、わたし 会いたい…って言ったじゃない?」 「うん。 俺も会いたいって言った」 「あれ、忘れて」 少しの間が空く。 自分の天邪鬼な性格に嫌気がする。 「わかった。 忘れるよ。 あの話はなかった事にしよう」 その言葉を読んで、逆に焦る。 今度はエレナが言葉に詰まった。 「そう言えば、 辞めた会社から頼まれて 11月に アルゼンチンに出張になったの」 「そうなんだ。 いまだに会社から頼られるなんて エレナ凄いな」 「そんな事ないけど…」 「いや、普通はないだろ、 退職したスタッフに仕事を任せるなんて。 エレナじゃなくちゃ出来ない仕事、 役割が未だに会社に存在しているんだね」 確かに他のスタッフでは難航する案件ではある。 直樹と違った視点で励ましてくれる隼人の言葉に少し気が晴れた。 「これが最後の出張になるとは思うけど、 なんだか気が重い」 「それでもやり甲斐は感じてるだろ?」 核心を得た一言だ。 「あとさ、 来月、旦那が岩手に出張なんだって」 また、少し間が空いた。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!